-Forest Times Special Feature- THE 18th ISSUE of 2023
~洋ランを咲かせてみましょう!~
著者:西口進一(カトログ !! ~ カトレヤ交配種のブログ ~管理人・運営者)
洋ランを枯らしてしまう理由として、もっとも多いと思われるのは「根腐れ」です。これは、ある誤解が原因です。皆さんが栽培している多くの植物は土に生えています。しかし、園芸や贈答用に流通している洋ランの代表的な種類の、胡蝶蘭、デンファレ、デンドロビウム、カトレアなどの仲間の多くは、土のある地面ではなく、木の幹や岩の上に根で張り付いて生活する着生植物になります。着生植物の水分補給は、木の幹や岩に張り付いた剥き出しの太い根から空気中の水分や雨などによるものです。
しかし、人工的に栽培する場合は、空気が大好きな根を植え込み材料(水ゴケやバークなど)で包んで狭い植木鉢に押し込んでしまうのですから、当然、根は窒息状態気味になってしまいますし、その上、お世話好きなベテランの方ほど、水を与えすぎてしまいがちなため、結果的に「洋ランは難しい…」となってしまいます。その「誤解」は、ぜひ初めに解いておきましょう。
さて、ここでは、比較的、入手しやすく目にする機会の多い胡蝶蘭と、栽培方法は胡蝶蘭と大差なく、趣味家に人気の高いカトレアの栽培方法について、ご紹介させていただきます。なお、洋ランの栽培方法やテクニックは、各々のご家庭の環境や条件などがあり、絶対的な正解はありません。
まず、どんな植物の栽培管理に対しても共通して言えるのは、各々の株の状態を観察して、それに応じた栽培管理を行うということです。洋ランの場合、開花時期が多様なため、季節に関わらず、生育段階に応じた栽培管理が必要になります。そのため、株の状態をよく観察して、その株が「成長期」「充実期」「休眠期」「開花期」のいずれに該当するかを判別する必要があります。
まず、「成長期」は文字どおり、株がぐんぐん成長している時期で人間に置き換えると、誕生から成人するくらいまでの時期にあたります。「充実期」は株の成長が終わり、幼株であれば、次の成長のためのエネルギーを蓄えている時期で、花芽が付いた株は開花のためのエネルギーも蓄えている時期にあたります。そして「休眠期」は自生地では、成長を止めて厳しい乾期を堪え忍ぶ時期です。最後に「開花期」は、その名のとおり、花が咲く時期で主に休眠期の直前にあたります。
ちなみに、開花期が休眠期の直前の乾期にあたる理由は、受粉の役割を担う昆虫の飛来を雨に邪魔されないようにして受粉の確率を高めるためと、多くのエネルギーを消費する開花後の休息のためです。
それでは、いよいよ「成長期」「充実期」「休眠期」「開花期」の各々の時期の栽培管理方法について、解説していきます。
<株の状態>
新芽が発生して、ぐんぐん成長している状態です。
<置き場所>
屋外の陽当たりと風通しの良い場所。ただし、葉焼け防止のため、日除けネット等で30~60%くらいの遮光をしてください。ちなみに、自生地では木の幹などに着生していますので、その木の葉が遮光の役割をして、葉焼けを防いでくれています。
・気温=18~28度程度が理想(昼は高く、夜は低くした方が生育は良くなる)
・湿度=60~80%程度が理想(夜に高くした方が生育は良くなる)
<水やり>
気温が20度以上あれば、2日毎。ただし、夜間の気温が28度を超える場合や成長期後期は控えめに。そして、水やりに追加で霧吹きは葉が乾いていれば、何度行ってもよいです。
<肥料>
・固形肥料=洋ランの場合、化成肥料は根を痛める可能性が高いため、なるべく有機肥料を与えてください。化成肥料の場合は、根に触れて根の成分で肥料成分が溶け出すタイプならOKです。いずれにしても、洋ランは他の植物とは根の構造が異なり、根が痛みやすいため、規定量の半分くらいの施肥の方が安全です。
・液体肥料=上記のとおり、洋ランは他の植物とは根の構造が異なり、根が痛みやすいため、他の園芸植物に与える場合の希釈率の倍以上に薄めて使用する方が安全です。
◎花芽を付ける施肥のコツ!
肥料の窒素(N)分は主に葉や茎の成長のための成分のため、成長期の後半まで肥料の窒素分が残っていると、追加の新芽が出てしまい、そちらへエネルギーが使われた結果、花芽を付けにくくなります。そのため、固形肥料は、新芽が発生してから3ヵ月くらいまでで効果が切れるものを使い、液体肥料は成長初期から約3ヵ月以降は与えないようにしましょう。
<病虫害>
洋ランの害虫として代表的な害虫は「カイガラムシ」です。カイガラムシが発生すると発生箇所が変形・変色して観賞価値が下がってしまいますので、歯ブラシや筆などで擦り落とした上で市販の殺虫剤を使用して駆除しましょう。
また、病気は細菌・カビ・ウイルスなどが原因のものなど、多種多様になりますので、インターネット検索や専門書などで調べるか、場合によっては蘭屋さんや地元の愛好会に持ち込むなどして、専門家に判別してもらう方が無難です。
<主な作業>
成長期の初期には植え替えや鉢増しが必要な株は、その作業を行いましょう。
成長期にできるだけ株を大きく成長させることが立派な花を咲かせるための最重要ポイントです。
<株の状態>
新芽の成長が止まり、葉が厚くなったり、茎が太くなったりします。
また、充分に成長させることができた場合、この時期には立派な花芽が着いています。
<置き場所>
屋外が下記の気温と湿度の範囲内であれば、屋外でも構いませんが、晩秋や冬季で気温と湿度の確保が難しい場合は、屋内や加温と加湿が可能な栽培ケースや温室で栽培してください。
屋内の場合は、できるだけ陽当たりの良い窓辺などに株を置き、補助的にLEDライトなどでの電照をおすすめします。
また、ホームセンターなどで販売されているアルミフレームにガラスをはめるタイプや、パイプのフレームにビニールをかぶせるタイプのミニ温室に電気式の各種ヒーターと温度調節のためのサーモスタットを使って加温する栽培ケースの場合も、できるだけ陽当たりの良い窓辺などに置き、補助的にLEDライトなどによる電照をおすすめします。
・気温=15~30度程度が理想。温室や栽培ケースの場合は、サーモスタットの設定を最低気温15度に設定します。なお、晩秋から冬季でも晴天の日は気温が40度を超えることもありますので、30度以上になったら、換気ファンや天窓の開閉などで気温を下げる仕組みが必要です。
・湿度=60~80%程度が理想(夜に高くした方が株がよく太る)
<水やり>
充実期は週に1回程度の水やりでOKです。根腐れを起こさないように、植え込み材料の状態を確認して、乾かし気味の管理を心がけてください。そして、水やりに追加で霧吹きを毎日1回は行ってください。
<肥料>
充実期には基本的に肥料は不要です。
<病虫害>
引き続き、主にカイガラムシの駆除に努めてください。なお、多くの場合、この充実期は晩秋から冬季になる場合が多いため、特に水やりのし過ぎによる根腐れには充分に注意してください。
また、花芽が着いている株には花が奇形になる可能性がありますので、薬剤散布は避け、カイガラムシなどの駆除には歯ブラシや筆などを使ってください。
<主な作業>
花が咲いた時に花同士が重なり合って、せっかくの花が小さく見えてしまったりして、本来の魅力を損ねてしまわないように、支柱を立てて株姿を整えておきましょう。
<株の状態>
株に成長・変化が無い状態です。品種によっては休眠期が無く、すぐに次の成長期に入るものもあります。
<置き場所>
充実期に準じます。
<水やり>
植え込み材料が完全に乾燥してから、たっぷりと与えます。
鉢内の乾燥具合の確認方法は、素焼き鉢の場合は鉢の表面が白っぽく変色することで確認できます。プラ鉢の場合は割り箸などを植え込み材料に差し込んで、その湿り具合で確認しましょう。そして、水やりに追加で霧吹きを毎日1回は行ってください。
<肥料>
休眠期には肥料は不要です。
<病虫害>
充実期に準じてください。
<主な作業>
特にありません。
<株の状態>
花が咲いている状態です。
<置き場所>
洋ランは秋から冬咲きの品種が多いため、開花期の置き場所は基本的には屋内か温室がある場合は温室内になります。また、ホームセンターなどで販売されているアルミフレームにガラスをはめるタイプや、パイプのフレームにビニールをかぶせるタイプのミニ温室に電気式の各種ヒーターと温度調節のためのサーモスタットを使って加温する栽培ケースの場合は、昼夜の温湿度差が大きく、株に与えるストレスが大きくなり、その結果、花が咲いている期間が極端に短くなってしまう場合が多いため、できれば屋内の居間などの人間が比較的快適に過ごせる部屋に取り込んだ方が花を長く楽しむことができます。
・気温=15~20度程度が理想。小さな栽培ケースの場合は、適切な換気ができないと冬場でも晴天の日には気温が40度を超えてしまいます。そうなると、せっかくの花が1日で萎れてしまうことがあり、株自体も傷んでしまいますので冬の晴天の日は要注意です。
・湿度=60~70%程度が理想
<水やり>
休眠期に準じてください。
<肥料>
開花期には、施肥は不要です。
<病虫害>
開花時期は花に付く「スリップス(アザミウマ)」に要注意ですが、薬剤を散布すると花が奇形になったり、傷みやすくなりますので、柔らかい筆やティッシュペーパーなどで駆除してください。
<主な作業>
乾燥で花が傷まないように、こまめに霧吹きを行ってください。なお、その際、霧が花にかかると花が早く傷みますので、花にはかからないように注意してください。
洋ランの栽培に使用する鉢として、おすすめは「素焼き鉢」になります。理由としましては、水ゴケ植えの場合、鉢内の乾き具合が鉢の色でわかりやすいためです。鉢内が乾燥気味の時は鉢の表面が白っぽくなり、湿り気味の時は色が濃くなります。
水ゴケがおすすめです。やや高価ですが、ニュージーランド産の「AA」というランク以上の水ゴケを使用して、硬めに植え込んだ方が、後々トラブル無く、生育が良くなります。
なお、水ゴケを使用する場合の鉢の選択肢は素焼き鉢に限定です。水ゴケと素焼き鉢の組み合わせの場合、水ゴケは毛細管現象で比較的、鉢内が均等に乾いたり、湿ったりします。そして、それが素焼き鉢の色に乾き具合として現れますので、水やりのし過ぎによる根腐れを回避するためにも役立ちます。
①水やりのし過ぎに要注意!
②冬季は適温に加温しましょう!
③夏季は遮光(日よけ)をして、葉焼けを防ぎましょう!
④成長期は、そよ風に当てましょう!
⑤肥料は少なめにしましょう!
コロナ禍がもたらした変化の1つにペット(愛玩動物)との関わり方があります。在宅時間の増加により、人々は暮らしの中に癒しや充実感を求めるようになり、犬や猫や小動物や爬虫類などのペットの飼育者数が激増しました。植物も同様に、多肉植物や塊根植物(コーデックス)などは「愛玩植物」といっても過言ではない程の人気となっています。一方、洋ランもかつては「蘭ハンター」と呼ばれ世界を股にかけて秘境を命がけで駆け巡った先人の情熱の賜物です。
どうぞ、これをきっかけに、一人でも多くの方が洋ランを愛玩植物として、楽しんで下さることを願っています。
西口 進一(Shinichi Nishiguchi)
兵庫県尼崎市出身、兵庫県神戸市在住
『カトログ !! ~ カトレヤ交配種のブログ ~』管理人・運営者
洋蘭のカトレアの中でも大輪系カトレア交配種が専門で栽培歴は1994年からになりますが、2004年に香川県在住の大輪系カトレア交配種の育種家さんにお会いし、カトレアとの新たな関わり方を教えていただき、それ以降、大輪系カトレア交配種の育種交配の世界に、すっかり夢中です。
現在、主にオレンジ(サンセットカラー)系巨大輪花の創出を目指して、十数交配し、イギリスにある英国王立園芸協会(RHS)への登録を済ませたオリジナル品種もあります。
・「世界らん展日本大賞2011」公式サイト・ピックアップブロガー
・NHK-BSプレミアム ドラマ「植物男子ベランダー」に画像提供(2015年8月)
・洋蘭情報誌「NEWORCHIDS(ニューオーキッド)」にて「大輪系カトレヤ交配種 『新時代の胎動』」執筆・投稿(2011年11月/2012年1月)
・「神戸どうぶつ王国新春洋らん展」プロデュース(2020年1月)
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