-Forest Times Special Feature- THE 1st ISSUE of 2021
Withコロナへの第一歩 ~『ギア-GEAR-』とのコラボレーションにかける思い~
新型コロナウィルス感染症は、今なお猛威を振るっています。わたしたちの生活様式は一変し、「仕事に行くこと。遊びに行くこと。買い物に出かけること。」など様々な部分で「あたりまえの日常」が奪い去られてしまいました。このような逆風は、商業施設やエンターテインメントの世界にも吹き荒れています。このままでは、何もかもがコロナによって奪い去られてしまう―。
コロナという逆風に立ち向かうべく、BRANCH(ブランチ)神戸学園都市テナント会(以下、テナント会)はひとつの決断を下しました。有観客イベント『B-Fes 5th Autumn 2021 feat. GEAR』の開催です。テナント会としては、約1年8か月ぶりのリアルイベント。なぜ、この時期に『ギア-GEAR-』とのコラボを実施するのか? これからどんな展望をもって進んでいくのか?これまでの経緯も含めて、テナント会の船越会長と『ギア-GEAR-』の広報担当 小原(コハラ)さんにお話を伺いました。
— 会長みずからイベントを企画するようになったきっかけは?
船越会長 今から4年ほど前になりますが、小さなお子様から「節分で豆まきを経験したことがない」と聞いてとても驚きました。わたしたちの幼少期には当たり前だったことが、今では当たり前でなくなっている―。時代の流れとともに、古き良き文化が薄れつつあることを悟りました。このことがきっかけとなり、「日本の文化を受け継いでいくこと、伝えていくこと」を真剣に考えるようになりました。こうして、夏祭りや盆踊りといった伝統行事をイベント化し、地域の皆さまに楽しんでいただくようになりました。
- 順調だったはずなのに…
船越会長 ここ1年半で、人々の生活は大きく変わりました。コロナというウィルスは本当に恐ろしい―。それでも、この神戸というまちには、どんな逆境にも立ち向かうだけの強さがあると思っています。コロナによって奪われたものはたくさんありますが、すべてを失ったわけではありません。これからはコロナと共存し、今できることにフォーカスして、アイデア次第で「心の豊かさ」を共有できるということを、伝えていきたいと考えています。その第一歩として、『ギア-GEAR-』(=言葉に頼らないパフォーマンス、今回はパントマイムやジャグリング)を選びました。ここから、わたしたちの活動は再び前進していくと確信しています。
- はじめに『ギア-GEAR-』 について教えてください。
小原さん 『ギア-GEAR-』は、当社のプロデューサー(=小原 啓渡 氏)がブロードウェイで「Blue Man Group」という青塗り男性3人組が演じるショーを観たことをきっかけに誕生した舞台公演です。大劇場ではなく小さな劇場でロングランを継続するそのショーに衝撃を受け、日本の小劇場でもできるロングラン公演の構想を描き、様々な実証実験を重ねて2012年にロングラン公演を開始し、今に至ります。
- 『ギア-GEAR-』に関わるようになったきっかけは?
小原さん お恥ずかしながら、私はもともと舞台には興味がありませんでした。ある日『ギア-GEAR-』のロングラン開始前のテスト公演を観る機会がありまして、「あれ?おもしろいじゃない!」と心が躍りました。ほどなくしてプロデューサーから「『ギア-GEAR-』を京都で立ち上げる。ロングランを本格的に始めたいから、やってみないか?」と声をかけられ、現在に至っています。
- ロングランにこだわるのはなぜですか?
小原さん ロングランというのは、お客さまにとっても、制作側にとっても、非常にメリットの多いシステムだと考えています。まず、長い期間をかけてお客さまの意見を取り入れながら作品をアップデートしていけるので、高いクオリティの作品を提供することが可能になります。また、公演のたびに新作を製作するとなると、当然それだけ稽古期間が必要となり、役者やスタッフの拘束時間も長くなります。そこにかかる経費を限られた公演期間のチケット収入で賄わないといけないので、どうしても収支計画として厳しいものになってしまいます。その点、ロングラン公演の場合は、朝にみんなが集まって数時間の稽古をするだけで公演ができるので、健全だと思います。そのぶん、常に新しい客層の方に来場いただけるような工夫は必要ですから、それはそれで大変ではあるのですが、日々試行錯誤しながら取り組んでいます。
- BRANCHとのコラボに期待することは?
小原さん 10年近く京都で公演を行ってきましたが、神戸ではまだまだ認知されていません。このたび縁あって、BRANCH神戸学園都市様にお声がけいただきました。この機会にぜひ『ギア-GEAR-』を知っていただきたく思います。BRANCH様は、ファミリー層の利用が多い施設だと聞いています。『ギア-GEAR-』は老若男女を問わず幅広い層に楽しんでいただける作品なので、非常に親和性が高いのではないでしょうか。
『ギア-GEAR-』は「ノンバーバル」と言って、セリフを使わないパフォーマンスです。このコロナ禍においては、少しでもリスクを軽減できるアートではないかと思います。また、客席間の飛沫防止パネル設置や、劇場全体への抗菌コートなど、可能な限りの感染対策を実施しています。笑顔になれる瞬間が少なくなってしまっているこんな時代だからこそ、舞台芸術は大切なものであり、絶やしてはいけないものだと思っています。舞台ならではのライブ感や一体感で、日常を忘れて楽しめる時間を過ごしていただければ嬉しいです。
- 今後の展望についてお聞かせください。
船越会長 これまでわたしたちが経験したことを糧にして、地域とのつながりを強めていきたいです。テナント会を形成する店主たちが、一人ひとり力を合わせて唯一無二の商業施設を作り上げられたらと―。店主たちのアイデアと強い思いをもって、地域に不可欠な生活インフラとして確固たる地位を築いていきたいと思います。
小原さん わたしたちの目標は、アメリカのブロードウェイで無期限のロングラン公演を実現させることです。『ギア-GEAR-』は、言葉の制約のない(=ノンバーバル)舞台ですから、いつかは叶えられると信じています。そして、『ギア-GEAR-』という公演タイトルにも込められているように、大きさや色、形の異なる多様なギア(歯車)が補い合い、連動した時に創造される“調和”の美しさや大切さを、作品を通してたくさんの方に伝えていければと考えています。